〈宇城ワールド〉の魅力を再認識 ― 小林信也 道塾見学記 ―
- 7月15日
- 読了時間: 5分
この日の道塾の冒頭、かつて宇城先生がスポーツ選手や音楽家たちを指導された動画のダイジェスト版が映写された。約20年から15年前の映像。
サッカーの岡田武史監督、山本昌邦さん、テニスの福井烈さん、格闘技の野地竜太さん、大相撲の鳰の湖’(におのうみ)、その多くの現場にご一緒させていただき、選手や指導者たちの変化、彼らの目の輝きが変わる瞬間を目の当たりにしているから、それは映像というより、リアルな追体験だった。バイオリニストの西村美香さんの奏でる音色が、素人の耳にも少しキーキーと聞こえた。これが宇城先生の指導で一変した。それは東京宇城塾での出来事だ。受講していた80人ほどの塾生が思わず驚きまじりの歓声をもらし、期せずして大きな拍手が湧き起こった。
宇城先生のご指導がスポーツにとどまらず、音楽にも活かされる。その事実に目を見張った。なぜ音色まで変わるのか? その意味は理解できていなかった。武術的な指導が身体の本質を変えるという基本にさえ、私はどこまで気づいていただろうか。
スポーツ選手の身体やパフォーマンスが劇的に変わることは、プロ野球選手、プロゴルファー、格闘家をはじめ、水泳、陸上、射撃、空手など多くの日本代表選手の指導に同席し、当初は戸惑ったものの、次第にその現実を受け入れ、はっきりと理解していた。
否。理解していたつもりだった。
この日、動画を見直し、まったく理解できていなかった自分に嫌というほど気づかされた。
道塾の前に、季刊《道》の特集のため、宇城先生にインタビューをさせていただいた。席に着くなり、宇城先生が、「江川卓さんっておるやろ?」と言われた。
「は、はい」、私はおずおずと相槌を打った。
「江川さんはボールをどう握っていたか、知ってる?」
「……」
「普通はどう握る?」
訊かれて私は常識的なフォーシームの握りを両手の指で表現した。
「江川さんはそれが逆らしいで」
「逆?」
逆とは、通常は中指が人差し指より長いので、縫い目の幅が広がっている方を中指にかける。だが江川投手はあえて、中指は幅の狭い方の縫い目に乗せる。その時、私は3年前、江川さん自身から直接聞かせてもらった「剛球が生まれた秘密」を思い浮かべた。
幅の狭い方に中指を乗せるということは……、
「江川さんは縫い目に指先をかけていない」
「そや、最後、ボールを離す時、指はどうする?」
「普通は中指と人差し指に引っかけて鋭くボールを回転させろと教えられます。でも、江川さんは、指先で回転はかけないと言っていました!」
「そやから、江川さんは一度も指にマメができたことはない言うとったわ。指にマメを作る投手がいるやろ、あれはレベルが低いちゅうことや」
そう言って、宇城先生は苦笑いをされた。
私は、江川さんから聞いた話の一部を宇城先生に伝えた。
「小学生のころ、ずっと家の前の川岸で石投げをしていたと聞きました。当時その伝説を聞いた我々はみんな、てっきり横から投げて川の水面をスキップさせる、そういう遊びかと思い込んでいました。ところが、ご本人に聞いたら、上から投げて、80メートルくらい幅のある川の向こう岸に届かせようと、来る日も来る日も投げていた。下からでなく、上から石を投げていたんです」
できるだけ投げやすそうな石を探したにしても、石をまともに握り、指先にひっかけて投げたら指先に傷がつき、すぐ中止せざるをえなかったはず。なのに江川さんは毎日、その遊びに興じていた。それは――。
「ボールを握っとらんいうことやな」
宇城先生が愉快そうに微笑んだ。
「子どもやから出来たんやろ。自分で工夫して身につけた。それを野球に応用したとこがすごいよな」
私は深くため息をついた。
かつて、宇城先生からボールの握り方の〈基本〉を教えていただいた。野球界では誰ひとり指摘することのない発想だった。私は衝撃を受け、改めて宇城先生の指導の次元の違いに敬服した。以来、ボールの握りはもちろん、バットの握り、ボールの捉え方等々、わかったつもりで語ることも多かった。しかし、何もわかっていなかった。
「常識的なボールの握りと、武術的なボールの握りは大事にするポイントが違う」のではなかった。
〈握る〉という行為そのものが存在しない。
「ボールは握らずに投げる」のだ。
その体感を生かしていたからこそ、江川投手は「怪物」と形容され、甲子園に出場する全国の強豪校の打者ですら「ボールに当てることができない」「前に飛ばない」と驚嘆された剛球を投げることができたのだろう。江川投手以降、そのようなボールを投げる投手はひとりも現れていない。考えてみれば、江川の真似をさせようとする指導者もあまり記憶がない。
「指導しても無理やろうな。教えられて出来るもんやないから」
宇城先生の武術的な指導は音楽にも活かせる、という表面的な話ではない。スポーツに応用すれば、次元の違うパフォーマンスに到達する、という比較論でもない。
根本的に〈人〉を変える。頭脳の命令で筋力を動かすのでなく、細胞で動く、身体を本質的に変える。
この日の道塾でも塾生たちは、〈できない自分〉から〈できる自分〉へ、細胞を生かすと鮮やかに自分が変化する実践を繰り返し体験させてもらった。
遠くに見えていた〈宇城先生ワールド〉とも呼ぶべき山の頂上が、これまで以上に遥か彼方に遠ざかった。けれど、遠くに霞んだ山頂の景色はいよいよ魅力的で、果てしない。だからこそ、これから先のやるべきことの無限さに心が引き締まった。
小林信也
(2026.7.13受講)
ウレタンのシートで相手を倒す宇城塾長
〈力〉の概念を覆す

〈宇城メソッド〉の一つ、宇城式呼吸を行ないその効果を検証する



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