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「力ではない。エネルギーなんや」 ― 小林信也 道塾見学記 ―

  • jht900
  • 3月21日
  • 読了時間: 6分

◇道塾に参加する直前の出来事


どう出版の木村郁子編集長から、拙著の「広報ビデオを公開しました」と連絡をいただいた。

《宇城憲治師直伝「調和」の身体論  武術に学ぶスポーツ進化論》の中で唯一、宇城先生の《気》の実例を紹介したパートの動画が編集されていた(動画)。元プロ野球の捕手・新里賢君が、エネルギーの入ったボールを宇城先生からトスされ後方に尻もちをつく光景だ。新里君の後ろを二人でガードしても、みんなが腰から砕ける。私自身、数回前の道塾でこれを見た時、目を丸くした。胸が湧き立った。

目に見えない電波が飛んでテレビが映り、携帯電話が通じるのだから、エネルギー体となったボールが威力を宿し、捕った人を倒しても不思議ではない。だが通常はできないことだから、たいていの人は戸惑う。そして、目の前の現実をどう受け容れたらいいのか、自分の中で折り合いをつけようとする。その折り合いの付け方に「素直さ」「謙虚さ」「学ぶ姿勢」が現れることを宇城先生から学んできた。


同じ日たまたま、交流のある文筆家からメールを受けた。《武術に学ぶスポーツ進化論》を読んでくれた方なので、上記ビデオのアドレスを紹介した。すぐ見てくれたようで、数時間後に返信が届いた。

「見事な手品ですね、とギャグで言いたくなりますね(笑)」

と書かれていた。その一文に接して、何とも言いようのないやりきれなさを感じた。

その人は、私の話も聞いているので、映像が手品でないことはわかっている。わかっているけれど、そう言わずにいられない心持ちがある。それは、いまの世の常識であり、その常識の中で一目置かれている彼の立場を保つためであり、彼自身の知性と自負を瓦解させないための方策なのだと、理解できる。だが一瞬、私は思考停止に近い気持ちに陥った。そしてすぐ、眼差しを真っすぐ前に向けた。


「世間なんてどうでもええんや」

宇城先生の声が聞こえた気がした。

常識に忖度し、折り合いだらけの〈世渡り〉に意識を向けて生きる暇はない。

(宇城先生の存在、宇城先生の術技や生き方をどうしたら世間に伝えられるか)

と考えるのは〈物書き〉の悪い癖だ。学び始めた当初からずっと「それはメディアにいる人間の病気や」と厳しく指摘され続けてきた。

世間に伝える必要なんかない。ないわけではないが、言葉では伝わらない。



◇2025年3月18日、東京道塾にて


この日の道塾の冒頭、宇城先生はホワイトボードにこう記された。


《実証事実から紐解く「人間の可能性」》

「知識、つまり理論・理屈を科学と呼んでいるけれど、実際はその科学が人間の進歩を止めている。そのことに気付かなければならない」


そして、赤いマーカーで書き添えた。

《脳(意識)は身体の1%しか動かせない。95%は自動操縦》


この一文を見た時、激しい衝撃を受けた。

(たったの1%……)

頭じゃないのはわかっていた、つもりだった。けれど、〈意識〉のどこかで、「人間は脳の命令によって行動している、脳が身体を動かしている」という思い込みが抜けていなかった自分を自覚して、唇をかんだ。

身体は意識の指令で動いているのではない。自ら自発的に動いている。〈意識〉ではなく、〈無意識〉あるいは《心》の発動によって行動している。


この日の道塾でも、宇城先生は次から次へと《気》のエネルギーを様々な方法で具現化し、鮮やかな変化を実証してくださった。

新里君がボールを受け取って腰から崩れるビデオが、ほんの入り口にすぎないことを道塾で学ぶ塾生のみなさんはもちろん知っている。かつて宇城塾やスポーツ塾で学んだころは、宇城先生が手をかざしたり、手を添えたりしてエネルギーを伝えていた。それは、目に見えないエネルギーの伝達をわかりやすく実感させるための動作だったのかもしれない。今や手をかざすことも、触れることもしない。それでエネルギーを伝え、自在にコントロールしている。


<実践事例1> 1対多数の腕相撲

宇城先生に《気》を通され、覆いかぶさる4人をひっくり返す女性



常識では理解できない数々の実証が宇城先生には可能だ。この事実は、人間にその可能性(能力)があると理解してよいのだろう。今の私たちにはできないけれど、同じ人間である宇城先生にはできる。幼いころからの生き方、日々の生活、心持ち、眼差し、そしてもちろん型稽古。なすべきことの積み重ねによって宇城先生のその領域に入れるならば、未来に熱い希望を感じる。

だがその未来の前に、私たちひとりひとりの課題がある。その領域に私たち自身がどうやって踏み入ることができるか、だ。


宇城先生のように《気》を自在に操ることはできない。だが、〈行動〉を重ねる生き方は実践できる。

「スポーツは逆を行っているんだ」、宇城先生が仰った。「力じゃない。エネルギーは《細胞》なんや」

それなのにスポーツ界は、〈筋力〉を中心に強化し、競争で歓心を煽ってお金儲けを目論む仕組みで動いている。

「今は〈要素還元主義〉。『部分を統合すれば全体になる』という考え方やけど、部分はいくら一緒にしても全体にはならないんです」

スポーツ界はまさにこの傾向を象徴している。〈筋トレ〉と〈メンタルトレーニング〉を別々にやって、合体すれば素晴らしい選手が出来上がると信じている。心と身体は切り離せない、という当たり前の人間科学を棚上げして、単純な過ちに気付かない。

現代社会も同様だ。《エネルギー》を基盤にするのでなく、「すべてはお金目当て」の利権構造で動いている。それが深刻な社会の歪み、救えないほどの腐敗、そして日本社会の衰退を引き起こしている。いま私たちひとりひとりが何をすべきか、この日の道塾でも宇城先生は繰り返し、実証し体感させてくださった。宇城先生の実証ひとつひとつが、刃のように私の胸に突きつけられている気がした。

(世間に忖度している暇はない。すぐに覚悟を決め直し行動するほかに道はない)


宇城先生はホワイドボードに、太陽と地球と月を描いた。遠く離れているが、見えない力でつながり、互いに連動している。

「地球が誕生したのが約40億年前。(コペルニクスが)地動説を提唱したのは1530年ころ。まだ約500年の歴史しかない」


宇城先生はホワイドボードの前に立ち、少し離れたところに塾生をひとり立たせた。そしてその塾生の腰を後ろから他の塾生が4人がかりで動けないように押さえた。それは、太陽と地球と同じように、私たち人間と人間の間にも目に見えない力が存在し、《確かな連動が起こりえる》という実証だった。

宇城先生が握手をするように右手を塾生に向けて出す。離れた場所に立つ塾生も右手を差し出す。普通なら、手と手がつながっていないのだから何も起こらない。ところが、宇城先生が「ほら」と呟くと、塾生は見えない糸に導かれるように前進する。後ろで押さえる塾生たちも一緒に引きずられ、前に進む。

<実践事例2> 

4人にがっちりと押さえられ身動きできない男性 宇城先生が手を差し伸べると・・・・・

男性は立ち上がり・・・・

4人をぶら下げたまま前進する




(これが人と人との和、協調の実証だ)

人と人の間にも、調和のエネルギーが存在する。

太陽と地球と月が、これほど離れていながら、目に見えない力で連動している。その宇宙で生かされている我々人間同士の間に同じ引力が存在しても不思議はない。これを高め、濃くすることで社会は自ずと変化するだろう。


「行動しかありません。行動すれば、変わります」

宇城先生はきっぱりと言われた。

気が自在に操れなくても、行動を重ねる日々は実践できる。


小林信也  


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