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「行動の根源にある『人間性』」 ― 小林信也 道塾見学記 ―

  • chiba
  • 5月15日
  • 読了時間: 5分

更新日:5月19日


今回の道塾でも、〈気〉による身体の変化、常識では考えられない人間の能力の数々を体感する内容だった。

 

〈実例1〉 1メートルほど間を開けて向かい合った二人の肩に一本の棒を乗せ、鉄棒のような形を作る。その棒に他の塾生が両腕を下に伸ばした姿勢で飛び乗る。通常は、この人を支えるだけで下の二人は精一杯だが、宇城先生に気を入れてもらうと、涼しい顔で人を乗せたまま歩き回ることもできる。


〈実例2〉

  〈気〉の入った棒を掴もうとして倒された人は、倒れたまま立ちあがることができない。一見、倒れた人は死に体に見えるが、エネルギーが伝播しているため強く、誰かが足を掴めば、軽く足を動かすだけで投げ飛ばすことができる。私も体験したことがある。この時の力は、我慢し抵抗できる次元ではなく、有無もなく跳ね飛ばされる威力だ。が、倒す方はさして力を出した意識はない。それでも相手が吹っ飛ぶほどの力が自分の中から出る。


〈気〉が通った人は、足を掴んできた人を軽々と投げていく



これらは道塾の塾生なら誰もが目撃し、体験しているだろう。

今回、宇城先生がこうした実践を通して伝えようとしておられたのは、行動の根源にある「人間性」「寄り添う気持ち」だったように感じる。

 

道塾の前にNHKの番組の打合せがあり、同席した。『大谷翔平を武術的に解析する』というテーマで、宇城先生の見解をお聞きしたいとの主旨だった。


宇城先生は、「大谷選手は、日本人が本来持っている《人間性》と《寄り添う気持ち》を土台にプレーしている。そのため、誰もが成しえなかった活躍ができているのではないか」と述べられた。この言葉を常識的に理解すれば、漠然とした〈精神論〉のようにも聞こえるが、この言葉にこそ、宇城先生が体現し、発信しておられる〈気〉の本質を理解する手がかりがあると感じられた。

宇城先生は、「大谷選手は、打つ時にボールと調和している。身体をねじらない。ニュートラルな姿勢のまま、ボールを巻きつけるように打っている。ボールとバットが調和しているため、衝突で打つ打者のようにボールがどこに撥ねるかわからないという不確かさがなく、確実に理想の角度で空中に舞い上がる。そして誰よりも遠くに飛ぶ」最近のホームランの例を挙げ、「この前なんか、ボールの上を叩いているのに、ホームランになったやろ。普通はボールの下を叩いて回転をかけるものやけど。あれは、調和なしに説明できない」とも付け加えられた。


大谷選手は渡米してからいっそう筋トレに力を入れ、すっかりたくましい体になった。多くの野球ファンが「筋力が増したから飛距離が出るようになった」「ホームランの量産につながっている」と理解しているが、「それは違う」と宇城先生は言う。

「おそらく、野球に関係する筋肉はそれほど鍛えていないんじゃないか。力ではあのバッティングはできないから」と、興味深い指摘をされた。


大谷選手は、力で飛ばそうとしていないから飛ぶ。


前回の道塾で「人は95%が自動操縦」という話があった。人間が意識して動かせるのは手や足など肉体そのものだけ。歩く、話すなどの行動は意識で操れるが、心臓も肝臓などの内臓も、血流も、意識下にはなく、自動的(自発的)に機能している。つまり人間は意識より無意識による影響の方が大きく、無意識に動く力に自分を任せた方が、遥かに潜在能力を発揮できる。5%と95%を比べれば容易にその差は理解できる。


しかし大半の人間は、自らの意識で動かせる5%の範囲で行動しようとしている。そういう日常を送っている。ところが大谷選手は「95%の方に自分を委ね、無意識の力を最大限に生かして打っているのだろう」それが宇城先生の推論だった。

「そうでなければ、わずか0.4秒くらいで飛んでくるメジャーリーガーの投球を、まるでわかっているように打つことなどできんやろ」

頭脳の判断や命令で投球に対応できないことは野球を経験した者なら誰もが理解できる。では一体、どんな感覚・メカニズムで打っているのか?

 

宇城先生は、《純粋経験》という話をされた。

「夕陽を見て『綺麗だ』と感じる。人はこれに理屈や形容詞をつけたがる。そうではなくて、『綺麗だ』と感じた、その気持ちこそが源泉なんだ」

これは、戦前に活躍した哲学者・西田幾太郎が提唱した《純粋経験》に由来する。端的に言えば《考える直前の経験》。


宇城先生が送ってくださった資料によれば、『純粋経験とは、物事を判断したり、名前をつけたりする前の、ありのままの体験。たとえば、美しい夕焼けを見たとき、言葉になる前の「あっ…きれい…」という感動。これが“純粋経験”です』


これを道塾では、少し別の観点からも表現された。それは《感性の種類》。

「人には三つの感性がある。一つは頭で感じる理性的感性。二つ目は体で感じる感性。もう一つが、宇宙から降ってくる感性」


三つ目の《宇宙から降ってくる感性》は、科学を重視する現代では無視・軽視されがちだが、人間には厳然と存在する。そしてこの第三の感性を素直に受け入れている人ほど、常識では考えられない力を発揮する。「自分が自分が」とか、「打とう、打ちたい」ではなく、自然体で取り組み、「誰かのために」という利他の心で行動する。それが本来秘めている潜在能力とポジティブに連動し、誰も成し得なかった活躍ができる。

かねて宇城先生が言われているが、少年時代に東日本大震災を体験した世代に共通の見えない力も、大谷選手に流れている。

 

「寄り添う気持ち」については、今回の道塾でも実践した。十人が前の人の肩に両手を伸ばして縦に並んだ列を、前から一人がいくら押してもびくともしない。ところが、そこに腹痛でうずくまっている人がいる、大丈夫ですかと気遣うと、それだけで変化が起こり、さほど力を入れて押さなくても十人の列は後ろに押される。「寄り添う心」が人間を変える実例だ。


 

「筋力や権力が人や社会を支配する世の中に健全な未来はない」と、多くの日本人は気づき始めている。だが、「力が強ければ、人も物も動かせる」という力偏重の思い込みからは脱却できずにいる。

自分の意識で何かをする、意図的に動く、それは「自己満足」「傲慢」でしかない。


大谷翔平選手が、95%の無意識に身を委ね、素直にその感性に従ってプレーしている。そのことに気づかせてもらえたことが、この日最大の感銘だった。

無意識の感性に素直に委ねる。そこに現状打破の道がある。


小林信也 

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